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プロダクト・デザインに関する一考察(1)

現代と文化編集委員会御中

日本福祉大学研究紀要 現代と文化 第108号 掲載論文

プロダクト・デザインに関する一考察(1)

-精密光学機器の市場特性分析-

An analysis on product design

-Characteristic of precision-optical-products market-

日本福祉大学情報社会科学部助教授 武上幸之助

序;

プロダクト・デザインとマーケティング戦略

1-1.プロダクト・デザイン

1-2.製品フォルム・デザイン

1-3.製品フォルム・デザインと製品認知度

1-4.製品認知度(IIR)の分析

(キーワード)プロダクト・デザイン、マーケティング戦略、市場行動、市場成果、製品認知度、回帰分析、コンジョイント.

 筆者は「プロダクト・デザインに関する一考察」において以下の概略に沿って論考を進める。

(1)精密光学機器について、本稿では、特に光学機械(写真・撮影機器)[][]の製品意匠に関するプロダクト・デザインとマーケティングとの関連性を採り上げ、その市場構造、特性と市場行動及び市場成果を論じる。

(2)精密光学機械(写真・撮影機器)については、市場形成の早期段階から独系企業のプロダクト・デザイン、即ち総じた製品設計;技術、特許政策、フォルム・デザインに競争優位を形成するマーケティング戦略が採用され、これを反映した市場行動が影響をもち、その市場リーダーシップによる製品市場拡散が図られたと同時に、著しい技術集約型の市場特性を持つ。ここでは独系オリゴポリスト企業の市場行動の特性を時系列的に分析し、市場行動とそのマーケティング戦略を考察する。

(3)更に3節にて1925年―1965年時期の精密光学製品の市場成長著しい時期の日本企業の市場行動と市場成果の特性を、独系企業のそれと比較検討し、独系オリゴポリスト企業に対する日本企業の産物ビヘイビアを考察する。我が国の精密光学製品技術の多くが独系企業の移入技術であり、市場形成において、外国のオリゴポリストを市場リーダーとする生産者共謀現象が存在したことを、次節以降明らかにしたい。

本稿(1)では、プロダクト・デザインの戦略上の意義とマーケティングとの関連性を採り上げ、その市場構造、特性と市場行動及び市場成果を論じる。

1.プロダクト・デザインとマーケティング戦略の関連性

11.プロダクト・デザイン

マーケティング戦略、特に差別化戦略のもつ市場行動効果、即ち市場成果(market performance)は、産業組織論の立場からベイン(Bain 1981)により「①製品フォルムの選択、②品質水準、③一市場内の製品の多様性を含む製品特徴」[]の効果が指摘される。この市場行動は、差別化手法では、それぞれ①製品意匠、マーチャンダイジング。②技術水準、品質安定等。③製品ラインアップ等の総じた製品設計(プロダクト・デザイン)[]に係わる戦略と捉えうる。これら非価格競争力は、特に市場導入期、成長期に企業に選好される戦略である。(拙稿 (後掲Abnarthy=Shearer仮説の実証分析1998)参照)

即ち、市場構造において、一般に製品の品質弾力性が価格弾力性を上回るPLC(Product Life Cycle)の導入期、成長期(製品技術革新に比較優位が形成される時期)には、これら①から③までの製品戦略(product strategy)が、戦略上重要な選択となるのに対し、価格弾力性が品質弾力性を上回る成熟期、衰退期(工程革新に比較優位が形成される時期)には、価格戦略が最適な選択肢となる。

本稿では、製品政策に係わるマーケティング戦略の中から導入期、成長期におけるプロダクト・デザイン;製品フォルム、製品意匠等[]のマーチャンダイジングに焦点を当てる。

先ず、このプロダクト・デザイン(製品設計)の持つ市場効果であるが、プロダクト・デザイン(製品設計)の品質、性能の点は、相対コストの問題(価格弾力性)よりも品質弾力性が優位な導入期、成長期には戦略上重要な意義をもつ。一方で製品フォルム等は製品差別化(生産物差別)の有用な手法であり、その製品需要を著しく非弾力的にする。つまり差別化戦略は、製品の特長の強調、広告による認知度の浸透、商標訴求の増強策であり、企業の市場行動を価格競争から非価格競争へ中心を移行させる戦略である。

この点で差別化戦略は、オリゴポリストにとり価格競争を回避し、参入者に市場参入障壁を築き市場占拠率を高める有効な手法となる。

差別化戦略の重要な要因である広告について、ここで我が国の産業別宣伝費の対売上、営業比率を見ると、業種によりかなりの開きがあるものの精密光学製品と関連製品の広告比率の非常に高いことが分かる。この時期の製品差別化が盛んにおこなわれたことが示され、この産業の一つの特長にもなっている。

産業

宣伝費/売上高

宣伝費/営業費

カメラ製造7社平均

49

249

写真フィルム2社平均

51

2565

(比較)綜合電機

13

93

PRエコノミー」NO.8有価証券報告書他‘64期より。また同時期の同製品普及率は564%ですでに高い普及率を達成した飽和期に相当する。

非価格競争戦略、特に差別化戦略を行う際、広告を媒体として市場集中が図られる場合がある。広告を通じた寡占形成を論じたカルドア(N.Kaldor)があり、特にgoodwill(暖簾)の形成過程について示唆を与える。それはAgent中間(卸売)取引者に対して間接支配効果があると見なすものの、買い手を売り手が直接支配する、即ち消費者の中に直接「暖簾」を打ち立てるための広告効果を説明する立場である。イギリス石鹸産業ユニリバー社の集中効果の戦略について以下、カルドアを引用すると「(広告により市場集中を図る)そのためには次の二つのことが必要である。第一に、その生産物が生産物差別化の意義の大きいものであること。ここで生産物差別化とは、その生産物の品質、デザインなど、その物自身の性質が差別化されていることの他、広告、宣伝、あるいは、購買上の便宜など一般に、その生産物の消費者が当該生産物を他の生産物に比べて選好させるような、すべての要因を含んでいる。第二に、その生産について一定水準以上の規模の経済性が存在すること。もし仮に生産物差別化の経済性があれば、消費者は問屋をとびこして直接自ら当該生産物を選択するようになる。」さらに「生産者は、それによって(1)現存する生産物に対する買い手の態度を差別化することができ、(2)また、現存する買い手の選好や先入観に適合するように、その生産物を差別化することによって、直接自らの消費者を確保でき、自己生産物の需要を拡大できるからである。」尚、J.Robinsonの掲げる市場不完全性の4つの要素にも、広告の持つ市場不完全性効果が挙げられる。「①輸送費②商標に対する買い手の異なる評価③売買に得られる便益④広告による買い手の特殊な選好である。」

即ち、オリゴポリストは、広告による差別化により不完全競争市場を作り出し、市場成果を得ることが可能である。

ここで以下、指摘される。「例えば完全独占の下では、そのモノポリストの支出する広告、販売促進費用は極小化されるであろう。もちろん同一産業内に競争者は存在しなくても、当該産業の生産物の需要を維持・開拓する必要があるため、それらの費用を0にすることはできない。同様に高度に集中された競争制限的寡占産業では、その販売促進費用は完全独占の水準に近いであろう。」しかし「生産物が非価格競争の場合でも、いわば生産物共謀(Product collusion)が形成され、オリゴポリストの生産物政策に協調行動がとられる可能性がある。」Caves 同掲書P47-48

12.製品フォルム・デザイン

プロダクト・デザインの、特に製品フォルムによる差別化の問題は、買い手である消費者の購買意思決定における感性、心理の問題に係わるため、一般に客観的予測分析が困難である。そこで企業(実務)においては「製品認知度」(index of item recognition)の指標を尺度に用い、比較検討をおこなう場合が多い。

これは機能の実現の為のフォルム・デザインを本来のフォルム・デザインとする一方で、製品には①本来持つべき機能的フォルム[]と②差別化のための広告上の心理効果を意図したフォルムがあると考えられ[]、①は合理的判断により理解が求められるが、特に②の心理的効果を分析する必要のための、いわば不合理な感性のフォルムである。ここで流行等の感覚的消費動向は、広告や買い手の消費、使用経験などから由来する製品フォルム認知度の要因に正の相関性が見られる。

これを端的に述べると「良く知られた製品フォルムは、一般に買い手の購買意思決定では感性面で販売も好調である」ことである。言い換えると「製品差別化のためのプロダクト・デザインは、製品認知度に支配されること」である。そのため後述の生産者共謀がオリゴポリストに必然的に生じることになる。

table 1.:プロダクト・デザインの分類)

プロダクト・デザイン

コスト・デザイン

製造、流通、販売、リサイクル

製造コスト、流通コスト

クオリティ・デザイン

技術、規格、性能水準、

品質管理、環境アセスメント

フォルム・デザイン

市場感性、パッケージ

消費者感性、

Takegami 2003

1-3.製品フォルム・デザインと製品認知度

消費者行動における感性分析では、市場リーダー(プロダクトライフサイクルの創始者)先導のプロダクト・デザインがなされた場合、消費者にその製品フォルムの認知度が高まり、固定概念化し、さらに、この製品フォルムによる差別化戦略が採用され、創始者は有効な市場成果を得る傾向がある。差別化戦略とは、「売り手の製品が同種のものであっても、買い手からは同一ではないと考えられる現象」[]の実現手法であり、「同種製品であっても買い手の心理では互換的なものとは考えられず、購買に際し価格が決定的要素とならない製品」の創出である。

差別化の手法となる製品フォルムの創出・決定は、導入期、成長期において、製品認知度を高める戦略を採用することにより市場リーダーシップが得られる傾向がある。

製品認知度の高い製品フォルムが、プロダクト・デザインの市場形成期において、同一製品ジャンルで、リーダーシップをとる傾向があるとするなら、仮説として、以下のことが掲げうる。

或る製品ジャンルにおいて「製品認知度の市場評価値分析により、或る製品フォルムの市場適合度を示しうる、即ち製品認知度の回帰分析により、製品フォルムの製品戦略上の効果が判明する」ことを分析してみる。このことは製品認知度の市場測定結果が、製品フォルム設計の際、選択基準となることを示す。故に製品認知度が重要な市場要因である場合は、この製品フォルムを前提とした戦略(例えば模倣のような生産者共謀)が選択肢となり、製品認知度が比較的重要な要因とならない場合は、フォルム創作(例えば新規の製品フォルム創出)が重要な戦略上の選択肢となることである。

1-4.製品認知度(IIR)の分析

製品の市場拡散が、価格と品質の二つの需要関数で表される場合は、理論値の推定が可能である[]。だが、特定製品の市場拡散を分析する場合、需要の決定要因が明確でない市場分析、即ち非価格競争市場の場合は、市場情報からフィードバックして需要決定要因をコンジョイント分析する。

このコンジョイントによる製品認知度の尺度は、広告戦略にしばしば利用される。具体的には広告投下量と商品知名度の関係、即ち、広告の市場反応効果の測定に際しては、以下の回帰式が用いられる[10]

Y=a1 – a2 X a3 x         (*1)

この式により関数形と初期値が得られる。

(広告投下量;X、製品認知度;Y)

製品認知度

                   広告投下量

次に回帰式の決定をおこなう。

予想寄与率;84%、68%、36%の3段階を想定し、直交表からSe値を採用する。

 回帰寄与率C[11]=(1-Se/St)x100   

a1,a2,a3の存在範囲を以下のように設定する。

未知数     水準

第一水準

第二水準

第三水準

a1

60.0

80.0

100.0

a2

0.0

32.0

64.0

a3

0.0

0.5

1.0

a11=60.0,  a12=80.0, a13=100.0

この場合、予想寄与率36%における未知数の最終結果は、以下に示される。

第一水準

第二水準

第三水準

a1

62.50

63.75

65.00

a2

40.00

42.00

44.00

a3

0.875

0.906

0.937

 (出典;田口玄一・横山巽子「ビジネスデータの分析」p109111から作成)

一般に採用されることの多い第二水準では、回帰式は以下に示される。

Y=63.75 42.00 0.906X

尚、この単一式で示される図式は、独占、寡占市場の場合の不完全競争状態であり、複占市場での完全競争を前提としていない。

「或る製品ジャンルにおいて製品認知度の高い製品フォルムが、市場形成においてリーダーシップをとる場合が多いとするなら、製品認知度の市場回帰(評価値)分析により、或る製品の製品フォルムの市場適合度を示しうる」仮説に基づくと、広告投下量の高い製品デザインは、一般に製品認知度が高くなり、市場適合度(市場成果)が極限値まで接近する。広告効果は製品認知度を高める為のものであり、認知度の高い製品フォルムは、差別化の効果の高い製品フォルムである。企業では、製品認知度を勘案し、識別、差別化できる製品フォルムを指向するマーケティング戦略が講じられる。

参考文献

1.      Christopher Lorenz ”The Design Dimension” Basil Blackwell Ltd.UK 1990

2.      クリストファー・ロレンツ著 野中郁次郎監訳「デザイン マインド カンパニー」ダイアモンド社19904

3. 田口玄一・横山巽子「ビジネスデータの分析」丸善p110113 197512

「広告投下量と知名度の回帰式」

4.荒川龍彦「ニコン物語」朝日ソノラマ 1981

5.越後和典「工業経済」現代経済学全書 ミネルヴァ書房 1981

6.田口玄一「直交表と線点図」丸善 1975

7.松林伸生「同質的市場における価格・品質競争戦略」日本経営工学会論文誌vol.53.No.6.2003.2.[12]

8. Hermann Armin 中野不二男訳「ツアィス」新潮社 1995.8

9.小林太三郎「広告効果測定ハンドブック」日本能率協会総合研究所1990

10.ミッシャ・ブラック、アヴリル・ブレイク編「デザイン論」法政大学出版局1983

11.平凡社編「工業デザイン」19952002

12. J.S.Bain ”Industrial Organization”2nd ed 1968 宮沢健一監訳「産業組織論」丸善1970

13.R.Caves”American Industry;Structure,Conduct and Perfpormance.”2nd ed 1967小西唯雄訳「産業組織論」東洋経済新報社1968

14. 新野幸次郎「産業組織政策」新評論1970.7 P126-127


1.      特に通産省工業統計表「日本標準産業分類」F製造業.37.計測器、測定器、測量機械、医療機器、理化学機器、光学機械、時計製造業に分類される精密光学機器を採り上げる。

尚、資料は経済産業省「工業統計表」分類F0306213F035211.総務省「事業所・企業統計調査」12596.東京商工リサーチ 産業小分類 32 精密機械器具製造業 325 光学器械器具・レンズ製造に拠る。

2. Bain. Joe S. “Industrial Organization”p11-12及び越後和典「産業組織論」P141-142ミネルヴァ書房1981

3.本稿では、精密光学製品のフォルム設計(第二節)に商業意匠、インダストリアルデザインの市場評価を扱うため、製品意匠に重点を置く。これを含む総じた製品設計をプロダクト・デザインと呼称した。

製品意匠フォルムは第二章で特に扱うため、ここでは、その導入として扱っている。

米国合理主義のインダストリアルデザイナーLymond Lowey 「良いデザインとは、機能美であり、用と美の結合である。」とし製品機能にフォルムの合理性を求めている。また「good designが、常にgood businessではなく、effective design は、常にgood businessである」。とデザインの商業性についても言及する。「世界的な生産コストの平均化により、プロダクト・デザインによる付加価値が必要になる。」参考文献11

6①機能合理性からのフォルム・デザインと②感性面でのフォルム・デザインの、この二つの明確な区別については、「第二章Leitzのフォルムデザイン」で扱う。

J.M.

Clark

”Competition as a Dynamic Process”p271-273

[] 後掲 拙著及び

松林伸生「同質的市場における価格・品質競争戦略」日本経営工学会論文誌vol.53.No.6.2003.2.[10]

.この方程式のデータとして、食品会社のおこなった製品パッケージ・フォルムに関するデータマイニングの事例。

   (表1)食品製品の認知度に関するデータ

 製品番号

広告投下量(単位)

製品フォルム認知度(単位)

3.7

31.3

9.3

56.6

48.8

95.0

0.6

16.3

1.6

22.2

3.0

39.0

6.7

33.6

11.2

41.0

15.0

56.0

10

18.4

58.9

11

2.4

28.4

12

6.8

48.4

13

7.4

38.5

14

14.7

50.5

15

58.8

71.8

           (出典;田口玄一・横山巽子「ビジネスデータの分析」p109

この事例からは、製品パッケージ・フォルムの市場成果の成功、不成功は、製品認知度が支配するものであり、結果として買い手に良く知らしめられた製品パッケージ・デザインが、市場成果を達成しやすいことを示している。

(図1)プロット図

. St=31.32+56.62+・・・・+71.82 – (31.3+56.6+  ・・・+71.8)2/15=5729.39

予想寄与率36%の場合、収束ステップ数5.Se値1540.4 回帰寄与率26.8

                            2003224日)

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