アメリカ・スモールビジネス事情⑫カナダのベンチャー支援事業
カナダのベンチャー支援事業
(カナダ・ハミルトン 「イノベーションファクトリー」 Hamilton’s Innovation Factory 訪問記 Sept 2007)
(カナダ経済はフランス拠り政策)
アメリカ経済に比して、カナダは資源産業、また水産業や農業主体で、人口少なく、経済的な国勢は工業面では遅れていた。
特にアメリカとの違いは、フランス系移民の多いことから学校教育、税制、特に福祉政策は大きな差異がある。
小生が、以前、勤務していた日本福祉大学の福祉関連事業でカナダ・オンタリオのモホーク大学(公立で福祉、工学が主な学部)へ出張した際、ハミルトンのイノベーションファクトリー(NPO法人)を訪問した為、ここに紹介する。
尚、訪問目的は、福祉機器開発のためのニーズ調査であった。スェーデンなど北欧は福祉先進国と言われるが、欧州では、海外移民の受入で少子化を免れ、若年人口増で福祉負担を軽減するドイツ式と、税制や、技術開発で福祉政策をすすめるフランス式(スェーデンも含む)で立場も異なる。カナダは、北米にあってフランスの影響の強い政策ゆえ、福祉技術は日本に比しても先進国である。
(ベンチャーは雇用の創出が主目的)
カナダ経済開発・イノベーション省が、トロントに次ぐ工業都市のハミルトンにイノベーションファクトリーを設立し、ベンチャー支援を行なう。
大きな特徴は、「イノベーションを用いた雇用創造」に重点を置くことであり、日本の一般のベンチャーについての理解(鳴り物入りのブレイクスルー、ハイテク、新ビジネスモデル、IT長者)とは、全く異なり、雇用増加が本来の目的なので、地味で、下支え的な技術革新が多い。また「起業家と顧客を結ぶ役割と協業の場の提供」が主目的である。
よって日本でのイノベーションイメージとは隔たった小さくて低廉で地味な内容が多い。例えば、ヘリコプターから個人が空中撮影する場合の手振れ防止の技術などが、大きな成功事例で紹介されていた。
以下、内容はHPでも観覧可;日本でも事業化できる事例も多い。
(実用新案も重要な戦略)
日本で登録可能な「実用新案 (Utility Model)」は、世界に制度例が無く、凡そ特許として権利化には及ばない小発明や工夫、ノウハウである。しかしカナダでは、そのような小発明を非常に重要な戦略として育成、支援している。またこのイノベーションファクトリーでは、殆ど無償で技術支援があるから、若者にもチャンスが広がる。小さなビジネスには、小さな発明も意義がある。
経営学者ドラッカーは、イノベーションとは、大規模な需要創造に結びつく、大発明では決してなく、「日常生活周辺の改善」であり、引出しの開け閉めや、からんだコードの束ね方など、「小さな工夫が、積み重なって大きなイノベーションになる」と述べている。
カナダはフランス系で、フランスも銀行、エネルギー関係を除くと中小企業が多く、また大企業の圧力も米国に比して小さい。中小企業の活力にも理解があるようだ。
イノベーションを考える時、代表的な米国ベンチャーを思い浮かべる。しかしこのような小さな草の根イノベーションは、数多く、雇用も底辺まで広げることが出来る。
小生が訪問時には、現地の工業高校の生徒も実習で当ファクトリー(外観はプレハブ工場であり、建物中に小部屋ブースが分野別に別れ、各自企業からの研修生、また高校生、市民に企業家が混じってビジネスモデルを研究していた)で研修を受けていた。中には大工職人もいて、チェーンソーの扱い方のコツなど伝授している。学生に対し、職人が、機械の改良で問題点などを指摘していた。ユーザーの小さな指摘だが、ニーズは大きいように思える。
(職人教育もイノベーション政策)
埼玉・川口市の鋳物産業の職人は、かつては日本の高度経済成長を支えた技術の継承者だった。中国政府は、中国大連の工業団地で、日本で既に衰退に入った産業の職人を指導者に招き、若き現地中国人に徹底教授している。3ヶ月で日本語も覚え、技術も数年で職人レベルにまで達する。職人は中国各地で、技術を普及させる。
また日本へ留学する主に中国国費留学生は、日本学生より日本語もしっかりしており、日本にいてインターン、企業技術など、良く学び取っている。
(アルバイトも制限されており、成績が悪いと強制送還もある。また教授からの指導報告などにリマーク(改善点)があるとかなり不利になるので必死である)
現在、小生が担当する中国学生の指導内容は本人の希望テーマが「日本の石炭産業の技術」であるが、中国では石油に次ぐ発電の主力でこれからも期待されるエネルギーである。日本でも火力発電では重油と並んで大きなエネルギー源になっているが、関心は薄く、70年代の炭鉱閉山と共に人も技術も企業も一切、解散、散逸してしまい、歴史学者、企業史研究家くらいしか実体も分からなくなってしまった。
(イノベーションの理解の違い)
アメリカ式の大イノベーションは、いつ出るか分からぬホームランであるが、カナダ・フランス式小イノベーションは、バンドヒット程度のイメージインパクトしかないが、成果には結びつきやすい。カナダの事例を紹介したが、日本の産業空洞は、大イノベーションを求め、コストの合わない職人芸を海外に散じてしまったことによる。
カナダ、オンタリオ・イノベーションファクトリーの詳細
http://www.innovationfactory.ca/
カナダ政府 経済開発・イノベーション省
http://www.mri.gov.on.ca/english/news/ONE110210a.asp
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