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研究報告)TPP時代の貿易取引実務の展望

(研究報告)TPP時代の貿易取引実務の展望 

―財務省東京税関 2015年度 税関職員研修講義録

(概要)

財務省東京税関 税関職員研修会 20151030日(金)
研修会担当 拓殖大学大学院教授 武上幸之助

於:江東区青海 東京税関ビル10F 税関職員「貿易実務」研修会

全国から集まった税関職員(係長級以上)の研修講師担当。
午前:貿易実務動向、電子商取引EDIを中心に解説。
午後:貿易実務事例を用いて解説した。

(概要)

 1.貿易実務研究の動向

「貿易」の語源は、道学の老子に由来し、貿=輸、易=経済から発祥したといわれる。貿易とは、物資、サービスの自由な移動、流通がその原義であるといえる。

保護貿易の反省から、戦後、IMF・GATT体制の自由貿易体制下での、日本は米国の貿易仕法を導入し、主に船荷証券、信用状付荷為替手形決済を中心とした実務体系を整備、発展させてきた。この貿易ドキュメントを通じたドル流通証券による決済システムは、世界貿易の急速な発展とドル決済システムを通じて米国経済と深く結合し、ドル信用の大きな基盤を形成してきた。

「貿易実務」仕法の特徴として、非常に多くの実務当事者、相互間に係わり、貿易ドキュメント作成、確認、決済、認証、配送等、非常に煩雑であることで、事務処理生産性から、米国にても約7.5%前後といわれている。

例えば、JASTPRO調査では、貿易書類(官公庁119種、商業民生65種)そのコピー官公庁45枚、商業195枚)、NCITD(アメリカ貿易手続き簡素委員会)の同調査では一件46種、コピー229作成・流通・処理平均時間、輸出36.5時間375ドル、輸入27.5時間320ドル輸出入総額の7.5%が貿易文書処理に費やされた。

事務処理の合理化が急務な一方で、電子商取引EDIまた日本通関申告システムNACCSなど通信情報革命の取り込み、外為法改正によるオープンアカウント勘定決済などドル規制撤廃による自由決済導入、またAEO等のテロ対策や通関審査の改革、コンテナ輸送が主力輸送手段化したことによる海上運送状(SWB)等の非流通証券による貿易信用決済などのリスク等にどのように対応するか、新たな実務課題に直面している。

 

2.電子商取引EDI

実務の主軸は、信用状付荷為替手形決済から直送B/Lシステムへの方向へ発展してきた。流通船荷証券が中心であった80年代は、約80%が信用状付荷為替手形決済を用い、2000年代は20%に迄、2010年代インコタームズ2010では、既に5%程度といわれ送金決済を基軸としたオープンアカウント決済が主役となり、現在は国際コンテナ化と非流通海上運送状・国際複合輸送証券取引が、その利便性により、法的未整備の中、B/Lに代わって利用拡大している。

貿易実務の動向の背景を見れば、8090年代円高と日本企業の海外進出・現地生産の拡大とそれに伴う産業空洞・企業内貿易化が、貿易決済の円建て化を進め、90年代から、SCMサプライチェーンマネジメントによるグローバル国際物流と市場連結が発展、2000年代からは、セキュリティ強化と貿易手続き簡素化とCEFACT(国連標準化開発組織)などによる電子商取引化が、現在は、貿易取引の注目視点となっている。

通貨危機後のアジア貿易では、現在、ドル信用のリスク極大化の時期でもあり、貿易決済が、ドル依存を主にしていた従来から、貿易流通の中での貿易実務は、SCMの国際グローバル的発展の下、その性質を変えて、EDIによるSCM効率化と発展により、自国通貨を利用する場合も多くなり、日本円決済も比重を増してきている。(注1)

    (図表1)EDIのイメージ(出典:富士通総研HP2015

 

3 電子商取引のリスク

主に東アジア貿易で「船荷証券の危機」が問われ出し、その貿易取引のペーパーレス化、電子商取引化の主軸は、国連CEFACTによるXML/EDI・EDIFACT標準策定、またJASTRO(日本貿易関係手続簡素化協会)、さらにボレロ船荷証券(電磁データ)実験、WTOの提唱するEDIへの経産省提案、経産省「国境を越える電子商取引の法的問題に関する検討会」などで、導入審議がおこなわれ、関税NACCS、またSDS(日本郵船)シングルウィンドウシステムなど、急速な発展を遂げている。

今回、TPPで示された貿易取引実務の迅速化への要請として、以下の項目が掲げられており、導入に際しての検討課題となっている。(図表2 出典、経産省HP2015

4.TPP交渉と電子商取引

現時点の公表分では、貿易実務上の課題として、以下の問題が掲げられている。(注2)

41.電子商取引

①インターネット上で販売される音楽のコンテンツや電子書籍などに関税をかけることは禁止。

②海外の企業が新興国などで電子商取引を行う際の条件として、国内にサーバーの設置を義務づけることは禁止。

③ソースコードと呼ばれるソフトウエアの情報を企業側に開示するよう義務づけることも禁止。

42.輸出入手続き合理化に向けての施策

急を要する貨物を輸出する場合、相手国の税関に書類を提出したあと6時間以内に荷物の引き取りをできるようにルール化。

43.EDIの推進主体

①国際的取り決め

CEFACT

(国連標準化開発組織:貿易円滑化と電子ビジネスの為の国連センター)

Center for Trade Facilitation and Electronic Business

②貿易手続の電子化

「荷為替信用状や、船積み書類の発行接受等一連の貿易手続きの電子化、ペーパーレス化を実現するため」の、

*国際的合意、標準化実務ルール作り、

*電子化した船積み書類などに関する権利義務関係など法制度の見直し、(コンテナ最大手 アトランティックコンテナライン海上運送状の電子化)

通関情報システムNACCSなど行政手続きとのリンク等が検討。

*世界標準グローバルな貿易EDI(電子データ交換)

(米国、欧州、日本などの銀行間で運営されている国際電子金融決済機構SWIFTを利用して、ロンドンに本部を置くBolero.netが先行して商業化)輸出業者が船荷証券やインボイス(荷物送り状)など貿易取引に関わるBOLERO船荷証券等、貿易取引書類を電子データ処理し、輸入者や自社の海外現地法人、運送業者、通関業者、銀行等に電送することで、契約から決済までインターネットを利用して内容の照合や必要な認証など、貿易取引の膨大な情報を迅速処理する。同時多発テロ以後、米国のテロ対策強化で、米国電子通関システム使用による輸入貨物の税関への事前申告が義務づけられ、貿易手続きの電子化がさらに促進させる施策が図られている。

 (主なEDIツールと主導国際組織)

     「Sea Dogs」1980

     「電子式船荷証券のCMI規則」1990 船荷証券の電子化:万国海法会

(貨物の引取りにB/Lを要しない)

*BOLERO:貿易文書の電子交換システム:電子式船荷証券の流通実験

*UN/EDIFACT(Electronic Data Interchange for Administration Commerce and Transport)欧州電子データ交換の国際標準

*ISO9735 JISX7011

*SWIFT(Society for worldwide Interbank Financial Telecommunication)金融通信メッセージ・サービスを提供する標準化団体)

*TSU:Trade Service Utility (SWIFTが開発した銀行間貿易金融データマッチングシステム )

(図表3)主なEDI主導国際組織(出典。経産省HP2015

EDIを巡る問題点の指摘項目)

①電子認証・署名:  新たな電子鍵の理論モデル

②電子決済マネー:信用状付荷為替手形に代わるオープンアカウント勘定

③貿易取引ルール標準化:UCC(米国統一商法典),SGACISG

       リステイトメント判例ルール策定

       *先行事例 旧ICCと80年改訂新ICC 

④決済担保保証:

      *流通性担保 船荷証券の裏書制度

.結語

実務家にとって「実事求是」とは、現場主義の課題の指摘であり、貿易実務においても、「現場作業に基づいた問題発見と、その課題解決」こそが、実際を支えている。

冒頭で述べた商品サービスの移動、それに伴う資金と信用が、貿易実務の原点であって、安全、円滑、確実にその流通を展開する「貿易取引の制度的担保」を維持することが、重要である。

一方、情報革命による電子商取引の導入は、実務家の基礎とする現場・実体リアリズムと乖離した抽象イメージの仕事にも展開する可能性もあり、電子商取引、それ故の問題も多く抱えている。

利便を支える経済性の背景には、必ず取引、信用リスクが潜むものであり、特に人民元を米国が国際決済通貨として認証した現在、今後、貿易取引が米国主導であった時期からさまざまな貿易取引実務が派生してくる可能性が高い。その意味で、貿易実務にも新たなリスクマネジメントモデルの導入が必要になる。

(注1)「米国サプライチェーンのEDI化の遅れによる直接的・間接的な損失コストは5年間で約17億ドルに達し、生産拠点の海外移転に伴うコストダウン効果を大きく損なう」    (米国自動車工業会HP2014

(注2)TPP交渉では、関税の低減化、撤廃化は、大きな貿易自由化課題の一つであったが、戦後、自由貿易の大きな転換点となった。(「自由貿易は、過去の戦争悲劇に対する最大の防波堤」チャールズ・キンドルバーガー)、一方、ブロック内での米国主導は、デジタルプロダクトゼロ関税化、緊急時通関6時間ルールの設定、EDIの推進などにも現れて、貿易取引実務の新たな発展局面を迎えることになった。

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