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国際貿易と技術革新 6 グローバルR&Dシステムの構築

第6章;グローバルR&Dシステムの構築

 研究開発マネジメントのシステムは、企業が技術を介して市場に不完全性を造り、そこに成長機会を見いだす手法である。技術の比較優位を創造し、維持、廃棄する時機を探り、どの市場にアプローチするか、どの技術に特化するか、技術をバーゲンするか、改良するか等の戦略上のリスクを管理する手法がRDMであり、その主な論拠に取引市場の内部化がある。MNCにとり不完全市場の創出がRDMの管理目標となる。

 

 要点1 .研究開発の意義について、一般に、研究開発R&D(Research&Development)の対象としては新製品を指し、例えば「製造企業における研究は、競争上の優位性を獲得し、長期に渡り、より大なる利益をもたらす新製品を生み出すことを主たる目的としている。」近年は、製品開発技術の概念に改良製品開発を含み、更に生産技術として製造工程の研究開発もこれに含めている。企業に於ける研究開発は著しく市場の概念に結びつきを持っている。

要点2. 用語定義について、Researchに基礎研究開発の意味を与える立場はインダストリアルリサーチ(開発以前の段階の研究)と捉え、Developmentに応用研究の意味を与える立場がある。 基礎研究は基礎研究を工業化するための研究であることから工業化研究と捉えられる。応用研究は、市場における具体的な製品の企業化の研究であり採算性、製品ライン等の市場供給の企業戦略面から行われる開発研究である。

要点3. RDMにおいて技術の投資効率を予測することは重要な手法管理である。技術予測についての評価システムを確立する必要がある。

要点4. RDMの手法は不完全市場を創出することであり、MNCにとってはグローバルな海外市場拡張の企業成長の機会創出の手法でもある。

 

1.RDMと市場調査

   製品市場を念頭に置いた計画的研究開発は、改良技術が主体となる現在では大企業による研究開発に関する研究資産の蓄積を前提としている。この背景には前述、ブレイクスルーの技術革新による技術よりも改良技術の開発リスクが低いことが考えられる。(高リスク分野ではベンチャー企業が研究開発で成功する場合が希にある。)

一方、技術に関する市場調査をおこなう米国ハミルトン社の調査によると研究開発の市場投入後の成功率は以下のようになる。

  (a)アイデア段階からの成功率 ----2.4%

  (b)研究開発段階からの成功率 ----12.5%

  (c)販売計画段階からの成功率 ----49.0%

製品市場での技術開発のための投資効果を勘案すれば、技術開発に先行して製品プログラムが前提となる。その意味で研究開発に先立つ製品技術選択の探索プロセスが重要である。そこで「研究開発によって生み出された新製品は、市場面の可能性が徹底的に分析されぬ限りは生産に踏み切れない」し、さらに研究開発と製品計画の関係について製品の価値判断の趨勢を製品市場からフィードバックする必要がある。

 技術調査の米国ランド社の調査によると、企業の技術開発のリスクはこの開発技術の製品選択、研究開発(懐妊)期間、研究開発回収の期間と費用等でありこの技術開発リスクの低減のため企業は十分な情報管理、弾力性ある組織構造、適切な評価システムを整備する必要性を掲げている。

  投入研究開発費と企業成長を関連付ける立場は、この技術開発リスク管理の重要性を強く主張する。このリスク低減のために企業は従来に個別技術の集積化、複合化を志向し、「製品市場のニーズの方向を策定し、従来の個別技術の集積と改良から成長製品を開発する」ことが戦略選択される。また同時に衰退製品技術の廃棄も行われる必要もあるから、製品市場での技術の価値判断の指標(例えばROI、売上)の趨勢を常にフォローする事が要求される。先に掲げたプロダクトライフサイクル はこの一つの指標として研究開発費の配分 に利用される。

2.研究開発と投資効果の評価

 研究開発マネジメントシステムの開発において、研究開発投資と効果及び回収のリスクを低減し技術開発の先見性を調査する必要は、先の技術の商品化のプロセスにおいて非常に重要である。この目的のために様々な手法が構築されてきた。

 従来の技術の外生面を評価する立場の外在的研究評価と最近の技術の内生面を評価する立場の内在的研究評価に分類してこの研究開発マネジメントシステムの手法の系譜を時系列的に概観する。

   

(表9-1 )研究開発評価システムの系譜

従来、デイスマンのROI(投資収益率)が中心であったが、’88年までの研究開発評価システムの潮流は殆ど外在的システムによるものであり、技術の外生面に比重が置かれていた。

 最近の研究収益の評価法で用いられるRCPでは以下のシステムを手法として開発している。その前提として以下のプロダクトライフサイクルに応じた研究開発投資と収益についてのモデルが導入される。

 以下の図において、研究開発投資とその結果得られる利益、貢献分が表される

(図9-1)PLCに応じた研究開発投資/収益についてのモデル

ここでの指標を研究収益RCP:Research Contributed-to-Profit評価法 では延長して以下のモデルから研究収益率を算定する。グラフ下部が研究開発費を、上部が研究開発による利益を表す。Y年度の研究収益率を求めるには、分子にY年度を含めた過去D年間の研究収益の総和を求め、分母にY-1年度からD年度の費用総和を求める。この比率から投資効果率を算定する。

尚、電子産業においてこの数値は約70%になることが経験的に実証されている。

9-2 研究収益RCP:Research Contributed-to-Profit評価法

3.グローバルR&Dの進展

 日本の経営国際化のプロセスを技術的側面から観察すると、戦前は貿易商社による流通を通じた商品取引が太宗であったが。戦後は製造業自体の製品輸出と直接投資が主になっている。地域的に分類すると先進国間の水平取引では技術、資本集約の先進技術導入のためのライセンス提携と製品市場の販売拠点設置を目標とした投資が多く、低開発国に対しては、小規模、労働集約財に特化した標準化技術の投資が多い。

 .技術革新と企業戦略についてグローバルな企業の直面する環境を以下掲げる。

1)寡占市場とRDM

   企業を取り巻く市場環境で特に成熟、寡占市場(不完全競争)段階に達した

市場環境では、企業の技術に対する競争戦略は寡占市場の構造に対応する必要があ

る。

寡占構造には

a)純粋寡占(Pure Oligopoly):鉄鋼、アルミニウム、ガラス、セメント等生産財における同質製品供給、

b)差別化寡占(Differentiated Oligopoly):自動車、家電、ビール等消費財における特殊化製品を供給がある。

前者では、製品代替性が高く価格競争の圧力が強く働く。価格カルテル(Cartel)

  の結ばれる動機が高い。後者においては他企業製品との差別化と製品差別化のための非価格競争が支配する。製品市場に於ける寡占構造が製品の技術開発の志向性に大きく影響を与えることになる。

2)技術ライセンス政策

  多国籍企業の海外直接投資の中で、資本投資による資本移動は様々な外資規制を伴うが、クロスライセンスのような技術ライセンス供与、技術提携等の手法は特に、知的所有権の場合、資本移動の規制を比較的に受けず移動しうる特徴がある。 一般にIBM,XEROX,KODAK等米国系企業の技術投資には以下のようなパターン がある。

   (a)企業進出による技術独占的支配;

 企業進出の参入障壁が低く、技術格差の大きな低開発国等に対してコスト低減効果の大きな衰退技術の投資を行う。 

b)技術出資による経営参加を目的とした直接投資;

 外資規制の厳しい国に対して、先進技術をトレードの材料として経営参加とデイーリングする手法。

c)技術輸出による技術供与、または技術提携による間接支配;

 受入国に技術吸収力があり、国内市場で競合企業を持つ企業と技術提携する投資手法。等である。

(3)技術導入と適正技術レベル

  自動車、半導体、電気機器、機械産業等のいわゆるシンボルインダストリーは開発途上国にとり技術導入の多い分野であるが、この多くは完成、半完成部品を輸入して、アッセンブリーを中心とするノックダウン方式が殆どであり、現地国での技術定着性の低いことも問題となる。技術移転には受入技術の適正レベルの選択が重要であり、現地国の技術水準と接続可能な定着性の大きい技術導入が図られるようになっている。

4.MNCとRDM

 多国籍企業の新製品開発の動機モーメントは、新製品投入による市場創出、市場占拠さらに高収益率の獲得である。バーゼルによると市場占拠率、利益率、R&D費率との相関関係を以下の様に分析している。

 表9-2 市場占有率、利益率、R&D比率の相関関係

(出典)R,D.Buzzell   B.T.Gale   R.G.M.Sultan

[Market Share- a key to profitability] HBR 1975  99p

 

 ここでは「米国企業で計画された売上増大のうち、約75%は新製品技術により得られる」ことが例証されている。

このR&D費との正の相関関係を多国籍企業が海外市場を含めた市場で有し成果をあげていることは、海外投資における多国籍企業の技術政策に意義を与えている。

このR&D投資から新製品の市場導入、技術独占による参入障壁の構築、独占的市場占有による独占的利益という一連のサイクルを構築するための技術政策が策定される。

 このR&D投資費を技術のライフサイクルに即して配分する立場に先のアバナシー=アッターバックモデルがある。

 製品政策と標準/消費外部性の問題については以下の問題がある。

 多国籍企業の技術政策の展開では、消費外部性、同品種製品における標準の獲得が市場占有率を獲得することから、標準化の戦略が構じられる。ウイーチマン(Wiechman U.E)の市場調査 では非耐久消費財を製造する27社の多国籍企業のうち約63%が標準化を達成しており、このうち殆どが国際的に統一した製品ラインになっている。耐久消費財では自動車に例をみるように非常に標準化が進められている。前掲、寡占市場分類からは差別化寡占での標準化の利益は大きく、製品差別化のための標準化が行われる。

 産業用途の生産財の場合は、ユーザーが製造業であること、受注産業に集中するため消費財のようには標準化度は高くない。これは純粋寡占における同質製品供給に多く、製品代替性が高いため価格競争に重点があるためと考察される。

終わりに:米国ランド(RAND)社のRDM分析活動

 米国ランド社は研究開発(RandD)の略号から命名されたという米国に於ける研究開発の手法を行う頭脳集団(Think Tank)である。(1948年設立サンタモニカ)同社により開発された手法には先のROI、コストベネフィット分析、ブレーンストーミング、リニアプランニング、そして同社を世界的に著名ならしめた、企業の競合状況の中での市場行動原理を分析したゲーム理論(同社ノイマン.J.F)等が掲げられる。

 同社の起源は、米国国防省が航空機製造業ダグラス社に提供した研究委託「プロジェクトRAND」にあり、陸軍航空隊アーノルド.Hにより設立された。その後ダグラス社から資本が別れ非営利の民間研究開発機関として活動している。

 同社の研究手法は一貫して複雑化するシステムを数値により制御するオペレーションズリサーチ(OR)にあり、経営手法として数々のノウハウを企業に導入した。

フォード自動車に同手法を導入した同社マクナマラ.Rは市場戦略に数多くの実績を残した。本書で表したバスモデル、RCP分析等も同手法の流れを汲み、米国市場において実績を示した手法として評価されている。

 技術要因から市場需要についての数値分析と予測モデル、これによる市場管理の手法が、本書での主旨とするRDMの手法である。米国市場での供給、需要構造と消費者の価値合理性は日本市場のそれとは異なり、そのため米系MNCの直接投資パターンにも日本市場適合のための応用手法が導入され成果を上げて来ている。国際市場のグローバル化と共にRDMの手法管理はさらに経済合理性に基づき応用的に発展するであろうが、需要構造の特性、例えば消費模倣等の要因分析は今後も重要な課題となるであろう。

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